財産所有者が生きているうちに、子供や孫などの親族へ財産を贈与することを「生前贈与」と呼びます。生前贈与をする理由には、財産所有者が亡くなってしまった後に親族の間で相続問題での争いが起きないようにするためなどの理由があります。財産所有者が生きているうちに、自由に贈与の内訳を決めることができる反面、その贈与税は相続税よりも高い税率が設定されています。基本的に贈与を受けた方はその財産の評価額に比例して上がっていく税率に基づき、贈与を受けた翌年には「贈与税」を納税しなければなりません。
今回は主に生前贈与における担保ローン利用時の注意点を解説していきます。
未登記建物・未登記増築部分の有無を確認する
生前贈与を受けることになり、贈与税の支払いを不動産担保ローンで組もうとする場合に必ず確認していただきたい項目が、「未登記建物」「未登記増築部分」についてです。
もし生前贈与が完了してから「未登記建物」「未登記増築部分」があることが判明すると、不動産担保ローンを組むことができなくなってしまう可能性があります。贈与が完了してからでも、「未登記建物」「未登記増築部分」があることが判明した場合、「未登記」のものに対して贈与をする前の所有者が所有権登記をし、その後改めて生前贈与の手続きをしなければなりません。
端的に言えば「二度手間」です。余計な時間、余計な費用がかかってしまいますので、生前贈与での贈与税に不動産担保ローンをご検討される場合には、「未登記建物」「未登記増築部分」の有無を入念に確認しましょう。
贈与前の所有者の財産使用意図に沿っているかを確認する
親族から生前贈与を受けようとする場合、現在の財産所有者が存命であるがゆえに、贈与する財産の使用意図を決めている場合があります。場合によっては、「不動産を担保に出してはいけない」などの条件が生前贈与時に付けられることもあり、そのような場合に不動産担保ローンを組んでしまうと後々発覚した際に問題となってしまいます。
また、生前贈与の予定も決まっていない状態で、不動産所有者の承諾を得ないまま、例えば自分の親だからという理由で、親が所有している不動産を担保にローンの申し込みをしてしまう人も少なくありません。この場合、不動産担保ローンの申し込みから審査を進めて行く中で、不動産所有者の承諾がないことが判明した時点で不動産担保ローンは白紙になってしまいます。
財産所有者の判断能力に注意する
生前贈与で課税される贈与税についても不動産担保ローンを組んで支払おうと考える場合、そもそものところで「生前贈与が問題なく遂行されたのか」が重要となります。
その際たる例が、存命の財産所有者が高齢や痴呆症などで判断能力が低下してしまっている場合です。財産所有者の判断能力が低下してしまっていることを隠し、「財産所有者の意思で生前贈与が行われた」としてしまうと、後々問題になります。不動産担保ローンを組もうとしたときの審査において、生前贈与のタイミングで元の財産所有者に判断能力がなかったことが判明すると、ローンの申請が白紙になってしまう場合もあります。
財産所有者の判断能力が低下してしまっていると思われる場合には、専門の弁護士、医師などへの相談が重要となります。
生前贈与時の贈与税には暦年贈与という制度がある
ほとんどのケースにおいて、財産所有者が亡くなったときに起きる相続による相続税よりも、財産所有者の自由に贈与条件などを設定することができる贈与による贈与税の方が高い税金が課されるようになっています。これだけで考えれば、特別な理由がない限り財産は「生前贈与」されるよりも、亡くなった時点で相続した方が節税的には有効であると考えることができます。
しかし、生前贈与には「暦年贈与」という制度があります。暦年贈与の場合、その贈与額が年間110万円以下であれば贈与税が課税されない制度のことです。つまり、生前贈与を受けようとする場合、暦年贈与の制度を活用し、年間110万円以下の贈与額に抑えながら数年間にわたって贈与を行なっていくことで贈与税の課税額をゼロにすることが出来るということです。例えば、3,000万円を一括で贈与した場合と、10年間に分けて贈与した場合とで比較をしてみると、
3,000万円一括で贈与した場合の贈与税 :約1035万円
3,000万円を100万円贈与10年間と1,900万円の贈与に分けた場合の贈与税 :約540万円
となります。10年という期間はかかってしまいますが、贈与税の金額をほぼ半分程度まで節税できるのです。
生前贈与時の贈与税では相続時精算課税制度も選択できる
相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母又は祖父母から20歳以上の子又は孫に対して、生前に財産を贈与した場合において選択できる贈与税の制度です。相続時精算課税制度を選択した場合、贈与財産の価額の合計額に特別控除額(2,500万円以内)を複数年にわたり、実際に贈与者が亡くなるまで適用することが出来るため、大幅に贈与税を減額することが出来ます。贈与者が亡くなり相続のタイミングでは、相続時精算課税の適用を受ける贈与財産額と新たに相続した財産の価額とを合計した金額を元に相続税が決まりますが、その際、既に納めた相続時精算課税に係る贈与税相当額は控除されます。また、相続税額から控除しきれない相続時精算課税に係る贈与税相当額については、相続税の申告をすることにより還付を受けることが可能です。
相続時精算課税制度を選択した場合は以降複数年にわたり相続時精算課税制度が適用されるため、暦年贈与の制度は利用できません。
まとめ
今回は、生前贈与により贈与された不動産で担保ローンを利用する時の注意点について解説してきました。今回お伝えした注意点を改めてまとめますと、
・未登記建物・未登記増築部分の有無を確認する
・贈与前の所有者の財産使用意図に沿っているかを確認する
・財産所有者の判断能力に注意する
・生前贈与時の贈与税には暦年贈与や相続時精算課税制度という制度がある
の四つとなります。暦年贈与や相続時精算課税制度と不動産担保ローン利用を併用することで、贈与を受ける方の資金体力に合わせた贈与計画を立てられるようになります。より詳細な不動産担保ローンについてご覧になられたい方は、こちらをご参照ください。
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